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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)130号 判決 1992年1月30日

大阪府門真市大字門真1006番地

原告

松下電器産業株式会社

同代表者代表取締役

谷井昭雄

同訴訟代理人弁護士

味岡良行

同弁理士

役昌明

小鍛治明

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 深沢亘

同指定代理人通商産業技官

中村和夫

長野正紀

左村義弘

同通商産業事務官

廣田米男

主文

特許庁が昭和58年審判第5657号事件について平成3年4月4日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

主文と同旨の判決の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  原告の請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和51年1月17日、名称を「多現象オシロスコープ」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和51年特許願第4329号)をし、昭和58年1月18日拒絶査定がなされたので、同年3月24日査定不服の審判を請求し、昭和58年審判第5657号事件として審理された結果、平成2年2月23日特許出願公告(平成2年特許出願公告第8274号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成3年4月4日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年5月23日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(別紙図面A参照)

第1チヤンネルの入力信号をオン、オフ制御する第1チヤンネルゲート回路と、

第2チヤンネルの入力信号をオン、オフ制御する第2チヤンネルゲート回路と、

上記第1、第2の内部同期信号と外部同期信号の中かち1つの同期信号を選択してオン、オフ制御する同期信号ゲート回路と、

これらゲート回路の出力信号を合成し、垂直軸信号としてCRTに印加する垂直軸出力増幅回路と、

上記第1、第2のチヤンネルゲート回路及び同期信号ゲート回路をそれぞれ個別に制御する第1、第2、第3のフリツプフロツプと、

これら第1、第2、第3のフリツプフロツプを相互に切換え接続し、第1のフリツプフロツプのみの動作状態、第2のフリツプフロツプのみの動作状態、第1、第2のフリツプフロツプを交互に動作させる状態、第1、第3のフリツプフロツプを交互に動作させる状態、第2、第3のフリツプフロツプを交互に動作させる状態、第1、第2、第3のフリツプフロツプを順次に切換え動作させる状態の、6つの状態を得られるようにする切換えスイツチと

を備えた、多現象オシロスコープ

3  審決の理由の要点

(1)本願発明の要旨は、前項記載のとおりと認める。

(2)これに対し、塩沢政美著「わかりやすいシンクロスコープ測定法」(株式会社産報昭和47年1月15日発行)の口絵写真、まえがき(第1頁)、第110頁、第111頁、第118頁、第142頁ないし第148頁(以下「引用例1」という。別紙図面B参照)には、下記の技術的事項が記載されている。

「各チヤンネルは高速の電子スイツチで切り換えられて、ブラウン管スクリーン上には異なった4つの現象波形を同時に観測することができます(写真3.8.4)。」(第142頁)

「入力方式切換器MODEをOFF位置にセツトすると、そのチヤンネルはチヤンネル切換周期から除外される。この時のチヤンネル繰り返し周期は図3.8.4のように早くなる。」(第145頁の「<5>チヤンネル切断(OFF)」の欄)

上記の記載(なお、シンクロスコープとオシロスコープは同義語である。)と、周知のオシロスコープの構造から考えると、引用例1には、

被観測信号のCRTへの入力をオン、オフ制御する被観測入力信号オン、オフ回路と、これらオン、オフ回路の出力信号を合成し、垂直軸信号としてCRTに印加する垂直軸出力増幅回路と、上記被観測入力信号オン、オフ回路を切換え制御して被観測信号数に応じた組合わせ表示を可能にするオン、オフ回路制御手段とを備えた、多現象オシロスコープ。

が記載されていると認められる。

(3)本願発明と引用例1記載の技術的事項を対比すると、信号ラインをオン、オフする回路手段としてゲート回路が周知の技術であることに徴すれば、本願発明の「第1、第2チヤンネルゲート回路、同期信号ゲート回路」は、引用例1記載の技術的事項における「被観測入力信号オン、オフ回路」に相当する。また、本願発明の「切換えスイツチ」は引用例1記載の技術的事項における「オン、オフ回路制御手段」に相当するから、結局、両者は、下記の2点において相違し、その余の点において一致する。

<1>CRTに印加する被観測信号

本願発明が外部同期信号又は内部同期信号を対象とするのに対し、引用例1には同期信号を対象とすることが記載されていない点

<2>CRTに印加する被観測信号の組合わせのためにゲート回路を制御するスイツチ構成

本願発明がフリツプフロツプで構成しているのに対し、引用例1にはその具体的構成が記載されていない点

(4)各相違点について検討する。

<1>CRTに印加する被観測信号について

昭和49年特許出願公開第53879号公報(以下「引用例2」という。別紙図面C参照)の第4頁左下欄初行ないし第4行には「例えば垂直モードスイツチは掃引と関連して又は独立して交互に切換えられ、垂直被観測信号と外部トリガ信号とを同時に観測することも可能である。」と記載されている。そして、外部同期信号と内部同期信号はオシロスコープの同期信号としては相互に等価の、周知の同期信号であるから、引用例2には、同期信号(外部、内部同期信号)を被観測信号とともにCRT表示する表示方式が示されていると認められ、この表示方式を引用例1記載の技術的事項における表示方式として採用する点に、困難は認められない。

この点について、審決請求人(原告)は、引用例2には独立した同期信号の信号波形がないから、同期信号と類推するのは困難である、と主張する。しかしながら、「垂直被観測信号と外部トリガ信号とを同時に観測する」ことが、外部トリガ信号の独立した信号波形をも指すことは、例えば本件出願前に頒布された昭和47年実用新案登録願第78905号(昭和49年実用新案登録出願公開第38268号)の願書に最初に添付された明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム(昭和49年4月4日特許庁発行。以下「引用例3」という。)にも示されている。のみならず、上記の点は、波形観測というオシロスコープの機能からみても、当該技術分野においては技術常識であるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

<2>CRTに印加する被観測信号の組合わせのための、ゲート回路を制御するスイツチ構成について

切換えスイツチの構成としてリングカウンタ(すなわち、フリツプフロツプ)で切換えスイツチを構成することは、例えば、TEKTRONIX TYPE M PLUG-IN UNIT INSTRUCTION MANUALにも記載されているように、本件出願前の周知技術である。したがって、ゲート回路切換え用スイツチとしてフリツプフロツプで構成される切換えスイツチを用いることは、当業者が必要に応じて適宜に選択採用する程度の事項である。

<3>以上のとおり各相違点は格別のものと認められず、それらを総合的に判断しても、本願発明が格別の効果を奏すると認められない。

(5)したがって、本願発明は、引用例1ないし3記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

引用例1に審決認定の技術的事項が記載されていること、本願発明と引用例1記載の技術的事項が審決認定の2点において相違すること、相違点<2>に関する審決の判断が正当であることは認める。

しかしながら、審決は、本願発明と引用例1記載の技術的事項との一致点の認定を誤り、かつ、相違点<1>に関する判断を誤った結果、本願発明の進歩性を誤って否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)一致点の認定の誤り

オシロスコープの内部同期信号は、被観測信号から抽出されるトリガ用信号(これを処理して、被観測信号と同期した水平掃引信号を得る。)であって、被観測信号と重複するものであるから、従来技術には、とりたてて内部同期信号を観測するという発想は存在しなかった。しかしながら、電子技術の進歩に伴って、オシロスコープの被観測信号は、周期的に繰り返す単調な波形でなく、周期が一定しない高周波成分を含む複雑な波形のものが多くなってきた。このような複雑な波形の信号を観測する場合は、被観測信号から抽出した内部同期信号では水平掃引の同期が掛かり難く、波形が乱れて観測が困難であるし、仮に同期が掛かっても、どの位相において同期が掛かっているのか、把握することが困難である。のみならず、内部同期信号は被観測信号から抽出されたものではあるが、抽出の仕方あるいは同期回路の周波数特性などによって波形が変化するから、内部同期信号の波形を観測する必要が生じてきた。

本願発明は、これを解決するために創案されたものであって、オシロスコープ内で発生した内部同期信号を被観測信号と同時に表示し観測することを技術的課題(目的)としている。したがって、本願発明の構成が最も特徴とするところは、「第1、第2の内部同期信号と外部同期信号の中から1つの同期信号を選択してオン、オフ制御する同期信号ゲート回路」を備える点である。

しかるに、審決は、本願発明の「第1、第2チヤンネルゲート回路、同期信号ゲート回路」は、引用例1記載の「観測入力信号オン、オフ回路」に相当する、と認定している。

しかしながら、本願発明の「同期信号ゲート回路」は、上記のように、第1、第2の内部同期信号と外部同期信号の中から1つの同期信号を選択してオン、オフ制御するためのものであり、被観測信号とともに内部同期信号を観測することを企図して配設されているものである。これに対し、引用例1記載の「被観測入力信号オン、オフ回路」は、外部から入力された被観測信号を通過させるものである。したがって、本願発明の「第1、第2チヤンネルゲート回路」は引用例1記載の「被観測入力信号オン、オフ回路」に相当するが、本願発明の「同期信号ゲート回路」は、選択された1つの同期信号を通過させる回路であるから、引用例1記載の「被観測入力信号オン、オフ回路」に相当するといえない。

したがって、審決の一致点の認定には誤りがある。

(2)相違点<1>の誤り

審決は、外部同期信号と内部同期信号はオシロスコープの同期信号として相互に等価な周知の同期信号であることを、相違点<1>に関する判断の論拠として説示している。

確かに、被観測信号と同期させるための水平掃引信号としては、外部同期信号と内部同期信号は等価である。しかしながら、観測の要否という観点からみると、両者は等価といえない。すなわち、外部同期信号は、被観測信号とは異なる信号であるから、どのような外部同期信号が印加されているかを観測する必要性は当然に存在する。これに対し、内部同期信号は、被観測信号から抽出される信号であるから、これをとりたてて観測するという発想が従来は存在しなかったことは、上記のとおりである。したがって、審決の上記説示は誤りというべきである。

のみならず、審決は、引用例2には同期信号(外部、内部同期信号)を被観測信号とともにCRT表示する方式が示されており、この表示方式を引用例1記載の技術的事項における表示方式として採用する点に困難は認められない、と説示している。

しかしながら、引用例2には、外部同期信号を被観測信号と同時にCRT表示することが可能であることは記載されているが、引用例2記載の発明は内部同期信号を被観測信号と同時にCRT表示することを全く意図していないから、相違点<1>に関する審決の上記説示も誤りである。

この点について、被告は、引用例2の図2(別紙図面C)を援用する。しかしながら、同図に示されている回路では、トリガ信号源スイツチ50の接点50Bのうち外部接点のみが接地され、内部接点及びライン接点は接地されていないから、トリガ信号源スイツチ50によって内部モードあるいはラインモードに設定しても、垂直モードセレクタ22が作動しないのみならず、外部トリガ観測前置増巾器20の動作が積極的に停止される。すなわち、トリガ信号源スイツチ50の接点50Bは、観測し得るトリガ信号を外部トリガ信号に制限するために設けられているのであるから、被告の上記主張も失当である。

第3  請求の原因の認否、及び、被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。審決の認定及び判断は正当であって、審決には原告が主張するような誤りはない。

(1)一致点の認定について

原告は、本願発明の「第1、第2チヤンネルゲート回路」は引用例1記載の「被観測入力信号オン、オフ回路」に相当するが、本願発明の「同期信号ゲート回路」は、選択された1つの同期信号を通過させる回路であるから、引用例1記載の「被観測入力信号オン、オフ回路」に相当するといえない、と主張する。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には「第1、第2のチヤンネルゲート回路及び同期信号ゲート回路をそれぞれ別個に制御する第1、第2、第3のフリツプフロツプ」と記載され、別紙図面Aの第1図には、フリツプフロツプ21、24、27が制御作用を行うゲート回路として、ゲート切換装置17のチヤンネル要素であるD1~D12(第1チヤンネルゲート回路はD1~D4、第2チヤンネルゲート回路はD5~D8)が図示されている。したがって、本願発明にいう「同期信号ゲート回路」は、通過させる信号こそ相違するが、第1あるいは第2チヤンネルゲート回路と同様に、被観測信号としてCRTに印加する信号をオン、オフする作用を行う回路に他ならない(CRTに印加する被観測信号として、同期信号をも対象とするか否かは、相違点<1>として検討されている事項である。)。

したがって、本願発明の「同期信号ゲート回路」も引用例1記載の「被観測入力信号オン、オフ回路」に相当するとした審決の認定に、誤りはない。

(2)相違点<1>の判断について

原告は、観測の要否という観点からみると外部同期信号及び内部同期信号は等価といえず、引用例2には外部同期信号を被観測信号と同時にCRT表示することが可能であることは記載されているが、引用例2記載の発明は内部同期信号を被観測信号と同時にCRT表示することを全く意図していない、と主張する。

しかしながら、引用例2には、審決認定のように「垂直被観測信号と外部トリガ信号とを同時に観測することも可能である。」と記載されているところ、この「外部トリガ信号」という記載は、同引用例の「ライン・トリガモードの場合(中略)トリガ信号の周波数、波形及び安定度は判っているので、普通はそれを観測する必要がない。」(第1頁右下欄初行ないし第7行)、「この検討のため、トリガ信号源スイツチ(50)は図示の如く「外部」位置にある。」(第3頁右上欄第9行及び第10行)と記載されていることから知られるように、通常は外部トリガ信号が観測されることが多いことに対応してなされているにすぎない。したがって、上記の「外部トリガ信号」という記載を、外部トリガ信号とともに周知のトリガ信号である「内部トリガ信号」という記載によって置き換え、場合によっては内部トリガ信号を被観測信号と同時に観測することは、当業者ならば当然に想到し得た事項というべきである。

のみなちず、引用例2には「垂直モード・セレクタ(22)は普通の垂直前置増巾器チヤンネルかトリガ観測前置増巾器かの何れかからの表示信号を選択する。」(第3頁左上欄第14行ないし第17行)、「トリガ信号はスイツチ接点(50A)及び結合スイツチ(51)の閉じた接点を通ってトリガ前置増巾器回路(34)の入力端に至る。」(第3頁右上欄第10行ないし第13行)、「外部トリガ信号を観測するため、スイツチ(90)の接点は閉じると(中略)同時に垂直モード・リレースイツチ(22)は付勢されて遅延線の入力端を垂直前置増巾器(16)の出力側からトリガ観測前置増巾器(20)の出力側へ切換える。(中略)スイツチ接点(22A)及び(22B)を通りCRTスクリーンに表示する垂直出力増巾器チヤンネルに入る。」(第4頁左上欄第2行ないし第18行)と記載され、さらに別紙図面Cの図2には、トリガ信号源スイツチ50の接点50Aに内部、ライン及び外部の各端子が図示され、かつ、スイツチ90の先に、トリガ信号源スイツチ50の接点50Bを介して内部、ライン及び外部の各端子が切換え接続されることが図示されている。したがって、引用例2記載の発明が、外部トリガ信号のみのCRT表示を企図するものでなく、場合によっては内部トリガ信号あるいはライントリガ信号をもCRT表示することを予定していることは、疑いの余地がない。

この点について、原告は、別紙図面Cに示されている回路において、トリガ信号源スイツチ50の接点50Bのうち外部接点のみが接地され、内部接点及びライン接点は接地されていないことを指摘する。しかしながら、同図は、観測される可能性が大である外部トリガ信号の表示を念頭においてそのように記載されているにすぎず、内部同期信号あるいはライン同期信号の表示観測が積極的に排除されていると解する理由はない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、同目録をここに引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いない甲第2号証(特許願書及び添付の明細書、図面)及び第3号証(手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が下記のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願発明は、多現象表示機能を備えたオシロスコープに関する(明細書第2頁第6行及び第7行)。

論理信号を取り扱う電子機器の急激な発展につれて、複雑な周期を有する信号、あるいは1つの信号により制御される多くの信号系を有する電気回路が急増している。このような信号あるいは信号群を観測する場合、動作様式に関係なく、任意のときに、同期信号回路における信号波形をブラウン管のスクリーン上に同時に表示させれば、同期を与えている信号成分の確認が可能となり、同期操作を簡単で誤操作の少ないものにすることができるばかりでなく、観測現象数を容易に増加させることができる。また、同期信号回路に挿入されている数種の〓波回路によって、同期信号中の特定周波数成分を抽出した信号波形の観測、あるいは不必要な周波数成分を監視しながら、同期操作を確実なものとすることができる(同第2頁第8行ないし第3頁初行)。

本願発明の技術的課題(目的)は、上記のような機能を備えたオシロスコープを創案することである(同第3頁第2行及び第3行)。

(2)構成

本願発明は、上記技術的課題(目的)を解決するために、その要旨とする構成を採用したものである(手続補正書2枚目第2行ないし3枚目末行)。

別紙図面Aの第1図はいわゆる2現象オシロスコープに同期信号監視チヤンネルを装備させた実施例の要部結線図(明細書第3頁第3行ないし第6行)、第2図は同実施例の動作波形図(同第5頁第11行)、第3図は同実施例のブラウン管スクリーンに表示される映像波形を示す(同頁第16行及び第17行)。

(3)作用効果

本願発明によれば、垂直軸入力に対する1現象表示動作あるいは多現象表示動作いずれの場合にも、同期信号波形を併せて表示できる。したがって、表示し得る現象数を極めて容易に増加する機能、同期信号回路中に挿入してある〓波回路を通して得られる信号の周波数成分弁別効果をブラウン管のスクリーン上の波形として確認する機能を備えることができる(明細書第14頁末行ないし第15頁第8行)。

このような機能を得る方法として、垂直軸チヤンネル信号の代わりに一時的に同期信号系の信号のみを表示する方法、あるいは、多現象表示時にのみ同期信号回路の信号を併せて表示する方法も考えられる。しかしながら、測定の同時性、迅速性、操作の自由度において非常に劣るばかりでなく、繰返し周期が長い信号の測定には映像の輝度が低下しがちなため、表示する現象数を極力減らす必要がある。そして、通常の簡単な測定の際には1現象表示で用いることが圧倒的に多いから、同期信号回路の波形観測機能が垂直軸の1チヤンネル表示動作の場合にも可能であることは、非常に有益である(同第15頁第9行ないし第16頁初行)。

2  一致点の認定について

原告は、本願発明の「同期信号ゲート回路」は選択された1つの同期信号を通過させる回路であるから、引用例1記載の「被観測入力信号オン、オフ回路」に相当するといえない、と主張する。

しかしながら、審決が、本願発明の「同期信号ゲート回路」は引用例1記載の「被観測入力信号オン、オフ回路」に相当するとしたのは、両者がいずれもゲート回路、すなわち入力信号の切断・接続を行う電子回路であることを説示したにすぎず、それぞれのゲート回路に入力される信号がいかなるものであるかは相違点<1>の検討に委ねていることは、その説示から明らかである。

この点について、原告は、本願発明の「同期信号ゲート回路」は内部同期信号を観測することを企図して配設されたものである、と主張する。しかしながら、上記の発明の要旨によれば、本願発明の「同期信号ゲート回路」の作用は「第1(チヤンネルの入力信号)、第2(チヤンネルの入力信号)の内部同期信号と外部同期信号の中から1つの同期信号を選択してオン、オフ制御する」というに尽きるのであって、同回路が特に内部同期信号を表示し観測することを技術的課題(目的)として配設されたものであるとすることはできない。したがって、原告の上記主張は、発明の要旨に基づかないものであって、失当である。

以上のとおりであるから、本願発明と引用例記載の技術的事項の一致点に関する審決の認定に、誤りはない。

3  相違点<1>の判断について

原告は、従来は被観測信号から抽出される内部同期信号をとりたてて観測するという発想が存在しなかったから、オシロスコープの同期信号として外部同期信号と内部同期信号が相互に等価な周知のものであることを論拠とする審決の相違点<1>に関する判断は誤りであると主張する。

そこで検討するに、成立に争いない甲第5号証(特許出願公開公報)によれば、引用例2の第1頁左下欄第9行ないし第11行に、従来のトリガ起動型オシロスコープは少なくとも内部、ライン(電源周波数)及び外部の、3種の掃引トリガモードを有することが記載されていると認められるように、外部同期信号と内部同期信号は、オシロスコープに同期を掛けるという機能の点においては等価なものであると理解される。しかしながら、このことは、被観測信号と同時に同期信号をCRTに表示し観測する必要について予測性があったか否かという点においても、外部同期信号と内部同期信号が等価であることを意味するとはいえない。外部同期信号は被観測信号とは別個の信号であり、したがって同期操作を正しく迅速に行うために外部同期信号の波形を表示観測する必要は容易に考えられるのに対し、内部同期信号の波形は被観測信号の波形と全く同一である場合が大部分であり、したがってこれを殊更に表示観測する必要は通常考え難いからである。現に、前掲甲第5号証及び成立に争いない甲第6号証(実用新案登録願書添付の明細書)によれば、引用例2あるいは3には被観測信号と同時に専ら外部同期信号を表示観測することが記載されており、被観測信号と同時に内部同期信号を表示観測することは全く記載されていないと認められる。ちなみに、前掲甲第5号証によれば、引用例2には「ライン・トリガモードの場合(中略)反復掃引は電源周波数と同期する。(中略)このモードではトリガ信号の周波数、波形及び安定度は判っているので、普通はそれを観測する必要がない。」(第1頁左下欄初行ないし第7行)と記載されていることが認められるが、この記載は、波形が確定しているライントリガ信号に関してなされているのであるから、被観測信号から抽出される内部同期信号の波形を表示観測することの必要性を示唆するものとはいえない。

また、被告が援用する引用例2記載の発明の詳細な説明を検討しても、内部同期信号を表示観測することの技術的意義を示唆する記載は存しないから、当業者が引用例2を読んでも、「外部トリガ信号」という記載を「内部トリグ信号」という記載に置き換え、内部トリガ信号を表示観測することに想到し得たということはできない。

そうすると、外部同期信号と内部同期信号はオシロスコープの同期信号として相互に等価な周知のものであることのみを論拠として、相違点<1>に係る本願発明の構成の予測性を肯認した審決の認定判断は、合理性に欠けるものといわざるを得ない。

もっとも、本願明細書において、同期信号の波形を被観測信号と同時に表示する目的ないし作用効果に関し、内部同期信号の波形を表示観測することの新規性ないし重要性は特に強調されておらず、外部同期信号と内部同期信号が全く同列のものとして記載されていることは上記1のとおりである。しかしながら、内部同期信号の波形を表示観測する必要性が特に認識されていなかった本件出願当時の技術水準を踏まえて本願明細書を読むならば、本願発明の特徴とするところが、同期操作を正しく迅速に行うために内部同期信号の波形を被観測信号と同時に表示観測する点に存することは、当業者が直ちに理解し得た事項というべきである。

この点について、被告は、別紙図面Cを援用し、引用例2記載の発明が外部トリガ信号のみのCRT表示を企図するものでなく、場合によっては内部トリガ信号あるいはライントリガ信号をもCRT表示することを予定していることは疑いの余地がない、と主張する。

確かに、引用例2記載の発明の実施例を示す別紙図面Cによれば、トリガ信号源スイツチ50の接点50A(結合スイツチ51を経由してトリガ前置増巾器34に入力される。)として「内部、ライン、外部」の3端子が図示され、同じくトリガ信号源スイツチ50の接点50B(スイツチ90を経由して垂直モードセレクタ22に入力される。)として「内部、ライン、外部」の3端子が図示されていることが認められる。しかしながら、同図に示されている回路は、トリガ信号源スイツチ50によって内部モードあるいはラインモードに設定しても、垂直モードセレクタ22が作動しないばかりでなく、外部トリガ観測前置増巾器20の作動を停止するように構成されていると理解される。すなわち、別紙図面Cに示されている回路は、外部モードに設定したときのみトリガ信号(外部トリガ信号)を表示観測し、内部モードあるいはラインモードに設定したときはトリガ信号(内部トリガ信号、ライントリガ信号)を表示観測しないことを明確に企図しているのであるから、引用例2記載の発明は場合によっては内部トリガ信号あるいはライントリガ信号をもCRT表示することを予定している、という被告の主張は採用することができない。

そうすると、「引用例2には同期信号(外部、内部同期信号)を被観測信号とともにCRT表示する方式が示されていると認められ、この表示方式を引用例1記載の技術的事項における表示方式として採用する点に困難は認められない」とした審決の認定判断は、誤りといわざるを得ない。

4  以上のとおり、審決の一致点の認定は正当であるが、相違点<1>に関する判断は誤りであって、この誤りが本願発明は引用例1ないし3記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法なものとして取消しを免れない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 佐藤修市)

別紙図面A

<省略>

<省略>

別紙図面B

<省略>

別紙図面C

<省略>

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